森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.8
 
安芸津の山中に遺る不思議な遺跡・トンカラリン

ある日、いつものように道路マップをぼんやりながめていると、安芸津町の山の中に「トンカラリン」と書かれている場所を 見つけた。いったい何のことなのだろうか?トンカラリンは地名なのか?疑問は次々にわいてくるが、道路マップからは何もわからない。結局、どうしてもトン カラリンのことが知りたくなって、初冬の休日にトンカラリンを訪ねてみた。

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トンカラリンまでの道のりは、ややわかりにくいので注意が必要である。目印は『平桁橋(ひらけたばし)』で、ここを少 し進んだところ付近の空き地に車をとめる。そして平桁橋から分岐して登りになっている山道を進む。この付近の畑ではイノシシの被害が多いようで、イノシシ 用のワナが設置されている。イノシシは足が短いため雪が積もりやすい県北には分布しないといわれていたが、近年では暖冬の影響もあって、中国山地でもよく 見られるようになった。そして瀬戸内沿岸では増えすぎで畑を荒らすことが多く、害獣として駆除されている。かつて日本の森ではニホンオオカミがイノシシや シカなどを食べ、森の生態系のバランスを保っていた。しかしニホンオオカミが滅びた今、里山のイノシシは大幅に数を増やしてしまい、森はバランスを失って しまった。  しばらく山道を登っていくと看板があり、杉林の中に石組みの穴を見つけた。どうやらここがトンカラリンのようだ。杉林の中は台風の影響でいたるところに 倒木がある。石組みの横穴のそばにトンカラリンを説明する看板があったので、その文を紹介する。 「この『トンカラリン』は、井戸と横穴を連結した石組遺構で、井戸の石組みに足をかけて、登られるように築かれており、水のない井戸の底から横穴となり、 そこから18メートル行くと入口があります。今ではこの遺構を『トンカラリン』と呼んでいますが、これとよく似たものが熊本県菊水町にあります。穴の中に 石が落ちた時『トンカラリン』という音がしたのでこの名があるといわれています。この遺構は7世紀頃作られたものと推定され、井戸を降り横穴をくぐり、厄 落しや無病息災の祥福を祈願したものと思われますー(略)」(東広島市教育委員会)  どうやら、この不思議な石組みは7世紀頃にできた信仰の遺跡らしい。7世紀といえば、日本では聖徳太子、世界的にはムハンマドがイスラム教を興した時代 である。こんな気の遠くなるような遥か昔に、瀬戸内の山の中でトンカラリンという石組みの信仰施設を作り、これを使って無病息災を祈っていた人々がいたの である。まさにトンカラリンは瀬戸内のミステリーといえる。そしてこの大変に珍しく貴重なトンカラリンが、地元の人でさえほとんど知られていないというこ とも不思議である。  トンカラリンの奥の方で何かが動いている。イノシシかと一瞬身構えたが、しばらく息を潜めていると一頭のシカが山の斜面を下っていくのが見えた。こちら の存在に気づいたようで、何度も振り向きながら下っていく。やがて姿は見えなくなったが、しばらくはシカが枯葉を踏むガサガサという音が響いていた。シカ は正式にはニホンジカといい、県内では宮島と広島市北部から安芸高田市にかけて、そして安芸津周辺という隔離した分布域を持っている。これはかつて広い範 囲に生息していた広島県のシカが、大規模道路の開発によって生息域が分断・孤立化された結果である。そして生息地では数が増えすぎて、餌となる植物が不足 してしまう。餌不足のシカはスギの苗を食べるようになり、結果として林業に大きな被害を与えている。  イノシシとシカの農業・林業被害は、広島県の里山が抱える大きな課題でもある。彼らとうまく共存する手段はないのだろうか。こんなことを考えながらトン カラリンを後にした。〈2007年2月号掲載〉

    
 
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森の中から姿を見せた野生のイノシシ

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森で見かけたニホンジカの若い雄

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トンラカリンの出口

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トンカラリンの解説図

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