森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.7
 
「呉の摩周湖」で野生のニホンザルを探す
〜呉市川尻町野呂山・昭和池〜

野呂山に「呉の摩周湖」と称される池がある。この池は野呂山の中核をなす膳棚山の南側の稜線にある昭和池だ。昭和池は周囲をアカマツや杉などの林に囲まれ、水の透明度が高く、訪れる人がなくてひっそりとしているところは、呉の摩周湖と言っても差し支えないかもしれない。
この昭和池の付近には多くの動物が棲息している。とりわけ昨年の春、このあたりで目撃したニホンザルの姿は今でも目に焼き付いている。

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昭和池へは未舗装道路を使うと、車で簡単に行くことができるが、自然観察やウォーキングが目的なのでぜひ歩くことにしよ う。出発は野呂山の山頂近くにある十文字ロータリーから。ここから南側に延びる林道を歩こう。植林された杉の林が続き、所々にぽっかりと空いた小さな草原 がある。この草原の草を見ると、斜めにカットされたものがあるが、これはノウサギの食痕である。夜間に調査をしてみると、やはりノウサギの姿を見ることが できた。ノウサギは日本の固有種で、冬毛が白くなるものをトウホクノウサギ、白くならないものをキュウシュウノウサギとしている。このあたりのノウサギ は、冬でも茶色い毛をしているのでキュウシュウノウサギということになる。天敵を避けるために夜に姿を見せ、草などを食べる。ただ、最近の山は荒れている ので、ノウサギが好むような草原が少なくなり、数がずいぶん減った。
林道沿いの水がしみ出たところに、白く美しい花がひっそりと咲いている。キクの仲間・キッコウハグマである。北海道・本州・四国・九州の山野に自生する野草で、高さは20cmくらい、花も小さいのでそばを歩いてもなかなか目につかない。
十文字ロータリーから自然観察をしながらゆっくり歩いても1時間ほどで、目的の昭和池に到着する。二股に分かれた林道を標識どおり左手に進むと、すぐに 目の前が開けて昭和池が姿を現す。誰もいない静寂の池、池底まで見えるほど水の透明度が高く、誰かが摩周湖と呼んだのもうなずける。
昨年の春、このあたりで野生のニホンザルを1頭目撃した。木の上を素早く移動して、あっという間に姿を消した。ニホンザルはヒトをのぞく霊長類のなかで 最も北に棲むサルとして知られ、北海道と琉球列島をのぞいた日本列島の、主として広葉樹の森に広く分布している。通常は群れで行動するが、私が目撃した個 体はたまたま群れからはぐれたのだろうか。ニホンザルといえば広島では宮島が有名であるが、ここの個体は淡路島の個体を放獣したもので、野生のものではな い。広島のニホンザルは、広島市北部で柿などの果実に被害を与えているが、呉では滅多に姿を見ることができない。ただ、かつて野呂山のさざなみスカイライ ンでもニホンザルを見ているので、野呂山塊にニホンザルが棲息しているのは間違いない。しばらく池のそばで森を見ていたが、一向に姿を見せない。昨年は台 風の当たり年で木の実が少ないため、里近くに移動したのかもしれない。
夕方になり、そろそろ日が傾いてきた。結局ニホンザルには出会えなかったが、きっとどこかで元気に暮らしていると信じたい。急ぎ足で林道を引き返していると、フクロウの鳴き声が聞こえた。夜の闇はすぐそこまで来ているようだ。
〈2005年1月号掲載〉

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呉の摩周湖と呼ばれる昭和池

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野性味あふれたキュウシュウノウサギ

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道路上で遭遇したニホンザル

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トンボ愛好家に人気の高いコノシメトンボ

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キッコウハグマは白い清楚な花を咲かせる清楚な美しさを持つ、ヒツジグサの花


   
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