森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.3
 
命のゆりかご『灰ヶ峰公園』の自然

呉市のシンボル・灰ヶ峰(標高737m)は、瀬戸内海沿岸を代表する自然豊かな山でもあります。とりわけなだらかな北斜 面に広がる雑木林には多くの動植物が生息し、今でも新知見が続々と確認されています。こうした灰ヶ峰のほぼ中心に、自然に配慮して設計された『灰ヶ峰公 園』があります。2005年に呉市が供用開始した本格的な環境ふれあい公園です。灰ヶ峰の北斜面、苗代・栃原に面した灰ヶ峰中腹に位置しています。 17.4haにも及ぶ広大な公園では、四季を通して多くの動植物を見ることができます。これほど豊かな生物相を擁する公園はとても珍しく、呉市の大切な財 産です。

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夏になると、灰ヶ峰公園の湿原には蘭の仲間・サギソウが白く清楚な花を咲かせます。サギソウは本州から九州にかけて分布 し、日当たりの良い湿地に自生します。白い花姿が羽を広げた白鷺に見えることから、サギソウと呼ばれるようになりました。山野草として人気が高いことか ら、盗掘が絶えない野草でもあります。花が咲く夏は遠目からでも見つけることができるため、この時期に集中的に盗掘されています。しかしこの時期は移植に は最も不適な季節で、わざわざ持ち帰っても枯らしてしまうことになります。「湿地に咲く自然のサギソウを楽しむ」という心のゆとりを持って欲しいもので す。かつて灰ヶ峰公園に隣接する大積地周辺の湿地では、一面にサギソウが咲き乱れていました。しかし開発が進んだ今では、ほとんど見ることができなくなっ ています。それでも灰ヶ峰公園内の小規模な湿地では、それぞれ数株のサギソウが自生しています。皆さんも宝探しのつもりで、森の中にある湿地のサギソウを 探してみてください。
また自然林に恵まれた灰ヶ峰公園は、夏鳥の宝庫でもあります。繁殖のために灰ヶ峰に渡来した夏鳥が、灰ヶ峰公園を散策するだけで多数観察できます。その なかでもシンボル的な存在は、公園の案内看板にもイラストで描かれているキビタキです。キビタキは冬は東南アジアで過ごし、繁殖のため春に日本にやってく る夏鳥です。公園内を歩いていると、「ピッコロロ、ピッコロロ」という美しいキビタキの鳴き声が聞こえてきます。繁殖は樹洞や樹の裂け目などで行ないます が、ときに巣箱を利用することもあります。公園には灰ヶ峰公園自然観察会に参加した人が作成した巣箱が、あちらこちらに設置されています。こうした巣箱 も、キビタキの繁殖に一役買っているようです。
動植物に恵まれた灰ヶ峰公園には、それらを捕食する大型のほ乳類も生息しています。タヌキ、キツネ、テン、イタチ、イノシシ、ノウサギなどで、稀に野生 のニホンザルも姿を見せます。とりわけ最近の里山でどんどん姿を消しているノウサギが、今でも公園周辺で普通に見ることができます。

ノウサギは正式には「ニホンノウサギ」といい、生息域によっていくつかのグループに分けられています。西日本のノウサ ギは、冬毛になっても白くならないキュウシュウノウサギとされています。夜行性のノウサギは、昼間は藪や木の陰でひっそりと休み、夜になると草や木の葉な どを食べます。そのためノウサギは、自らが食べられるような低い草の生える草地を好みます。「兎(うさぎ)追いし かの山、小鮒(こぶな)釣りし かの 川」と歌われるように、かつてノウサギは全国の里山で普通に見られた動物でした。しかし里山の開発や荒廃などによってノウサギが生活する明るい草地が減っ たことなどから、急速に数を減らしています。ところが灰ヶ峰公園付近では、今でも道路を横切ったり、草むらを走り抜けたりするノウサギをよく見かけます。 特に灰ヶ峰公園の入口付近や公園の東に隣接する湿地付近に多いようです。
深い森のある灰ヶ峰公園は、真夏の炎天下でも木陰に涼しい風が吹きます。気軽に豊かな自然に触れられる灰ヶ峰公園で、サギソウやキビタキなどを探してみませんか。

〈続きは2008年10月号へ〉

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森の湿地でひっそりと咲いたサギソウ

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水場にやってきたキビタキの雄

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灰ヶ峰公園の森、
近くにサギソウの咲く湿地があります。

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夜、倒木に飛び乗ったノウサギ


   
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