森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

bar1.gif

 
VOL.18
 
トンボの楽園・八幡湿原でヒロシマサナエを探そう
-広島県山県郡北広島町・八幡湿原(尾崎沼湿原)-

西中国山地における自然保護のシンボル的存在となった八幡湿原は、多くのトンボ類が生息する「トンボの楽園」としても知られています。とりわけこの湿原で発見されたヒロシマサナエは、今でもこの八幡湿原と比婆山系の一部でしか見られない貴重なトンボです。初夏は湿原が最も輝くとき、美しい花々と多くのトンボたちとの出会いを求めて、自然豊かな八幡湿原を散策してみましょう。

    vol.18MAP.jpg
     
八幡湿原は広島県山県郡北広島町にある尾崎沼湿原・奥尾崎湿原・長者原湿原・千町原湿原などの湿原の総称ですが、今回はその中で最もよく知られている尾崎沼湿原を紹介します。尾崎沼湿原は尾崎沼(新川溜池)の奥と、池の下側とにある湿原の総称です。自然観察をしながら散策しても一時間ほどで回れるため、ちょうど良い散策コースになっています。尾崎沼湿原までの行程はややわかりにくいかもしれませんが、八幡小学校前にある標識に従って進むと良いでしょう。湿原の入口に駐車場があるため、ここに車を停めて散策のスタートです。左手に広がる湿地は尾崎沼の下側にあたり、カキツバタ群落があることでよく知られています。
初夏、湿原のいたるところでカキツバタの花が見られます。美しいものに優劣をつけるのが難しい喩えとして「いずれアヤメかカキツバタ」といわれますが、初夏に咲くアヤメとカキツバタ、ハナショウブはそれぞれ区別が難しく、混同されている場合もあります。このうち尾崎沼湿原で見られるのはカキツバタです。カキツバタという名前の由来ですが、この花の汁で布を染めたので「書き付け花」と呼ばれていたものが、カキツバタになまったといわれています。花は一日しか咲かないのですが、次々に新しい花をつけ、夏の終わり頃まで鑑賞することが出来ます。
尾崎沼湿原の中には小さな溜め池がいくつかあり、水面に黄色い花を浮かべたコウホネが見られます。コウホネはスイレンの仲間で、日本全国の池沼や小川などに生育しています。近年、環境悪化などによって数が少なくなり、北広島町でも見られる場所が限られている貴重な植物です。
最近、八幡湿原で増えてきた植物があります。コンフリーという名で知られているヨーロッパ原産のヒレハリソウです。古くから、ヨーロッパでは根や葉を抗炎症薬や骨折を治す薬草として使われてきました。また日本では戦後、葉を天ぷらにするなど、食用として使われてきました。昭和40年代には、健康食としてヒレハリソウが大ブームになり、各地で栽培されて、一部では逸出して野生化するようにもなりました。ところが詳しい研究の結果、ヒレハリソウは肝障害を起こす毒草だということがわかりました。そして今では食品としての販売が禁止され、食用にしないようにという注意もされています。この尾崎沼湿原でも野生化したヒレハリソウが見られ、年々増えてきているようです。
植物観察の後は、トンボを探してみましょう。尾崎沼湿原は池沼、湿地、小渓流といった様々な水の環境があるため、観察できるトンボの種類も豊富です。初夏には湿地の中をヨツボシトンボ、モートンイトトンボ、タベサナエなどが多く、時にヒロシマサナエも姿を見せます。
ヒロシマサナエは全長45 ㎜ほどの小型のトンボで、正式には日本特産種であるモイワサナエの中国山地亜種になります。広島大学名誉教授の澤野十蔵博士(故人)により八幡湿原で発見され、その以後ミヤジマトンボとともに広島県を代表するトンボとして広く知られてきました。ヒロシマサナエのヤゴは、湿地の中の小さな流れに好んで生息するため、湿地の中のそうした場所を探すと、比較的簡単に見つかります。ただ同じ場所で同じ時期に見られるタベサナエとコサナエは、一見しただけでは区別が難しいほどヒロシマサナエとよく似ています。胸の斑紋がチェックのポイントになりますので、事前に図鑑やインターネットでよく調べておくことをおすすめします。ヒロシマサナエはそれほど飛び回ることはなく、飛んでいてもすぐに止まるため、比較的簡単に観察や撮影が出来ます。
湿原の縁を流れる側溝にも注意しましょう。この側溝の流れに好んで住むニホンカワトンボの姿を見ることが出来ます。側溝からあまり離れることはないため、観察も容易です。ニホンカワトンボが交尾した姿は、遠目で見ると「ハート型」になっています。初夏にしか姿を見せないトンボなので、この時期にしっかり見つけておきましょう。
初夏の尾崎沼湿原は、年間を通して最も美しい時期です。花やトンボだけに限らず、多くの生き物たちとの出会いを求めて、ぜひ訪れることをおすすめします。おいしい空気をいっぱい吸って、気持ちの良い森林浴が出来るはずです。

詳細は、月刊くれえばん2008年6月号掲載

ウェブ上の文章及び写真を無断で使用することは固く禁じます

 

 

 

 

 

 

 

 

    
 
mo18_01.jpg
ヒロシマサナエは初夏だけに姿を見せます。

mo18_02.jpg
鮮やかに咲いたカキツバタ。

mo18_03.jpg
交尾してハート型になったニホンカワトンボ。


   
くれえばん © 2011 KUREEBAN Corporation All rights reserved.