森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.16
 
実りの秋、緑豊かな渓畔林をもつ十方林道を歩こう
-広島県廿日市市吉和・十方林道-

秋の十方林道は、実りの季節を迎える。秋晴れの日に、森林浴も兼ねて十方林道を歩いてみよう。渓畔林に入り込むと、いたるところで森の恵みに遭遇する。森の恵みの一番人気は、やはりキノコの仲間だ。マツタケ、ブナシメジ、マイタケ、シイタケ……数え上げたらきりがない。ヤマグリや栃の実などの木の実も豊富である。ナチュラリストにとって、秋の森でキノコや木の実を探すことは大切な秋の恒例行事だ。

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十方林道は広島県の名峰・恐羅漢山と十方山に挟まれた深い渓谷につくられた未舗装の林道で、安芸太田町側の基点は恐羅漢山スキー場直下の二軒小屋である。ここで車を止めて林道歩きをスタートする。しばらくは左手に渓流を見ながら、ゆっくりと林道を上っていく。秋の訪れとともにカエデやモミジが少し紅葉し始めているが、まだ森の色は赤や黄よりも緑が勝っている。本格的な紅葉は10月末頃からだろう。
しばらく歩いていると、苔が生えていた林道脇に鮮やかな色が散らばっている。何だろうと思って近づいてみると、小さなお椀型をしたヒイロチャワンタケというキノコだった。このキノコは図鑑に食用と書かれていたため、一度だけ試食したことがある。ところがみそ汁に入れるとバサバサとした歯ごたえで、全然おいしくなかった。どうやらこの食べ方が間違いだったようだ。フランスでは砂糖をまぶしたヒイロチャワンタケにブランデーをかけて、フルーツのようにして食べるらしい。今度ヒイロチャワンタケを見つけたら、この食べ方を試してみたいと思っている。
林道を登り切ったところが水越峠である。ここから林道は、細見谷川に沿って恐羅漢山と十方山の谷間を緩やかに下っていく。渓流沿いにはトチノキやミズナラなどの巨木が目立つようになる。このあたりの渓畔林は西日本屈指ともいわれ、一見の価値がある素晴らしい森である。
渓畔林に入り込んでトチノキの巨木まで行ってみよう。トチノキは西中国山地を代表する落葉高木で、5月には大型の白い集合花を咲かせる。同じ仲間のセイヨウトチノキはマロニエともいわれ、広島市の平和大通りにたくさん植樹されているのでおなじみだろう。
それにしても、本当に気持ちの良い林道だ。舗装されていない道路はガタガタで、車で通行することを考えると少々躊躇するが、たまにはウォーキングが中心の林道があっても良いのではないだろうか。
下りもそろそろ終ろうとした頃、森の中の倒木に生えた天然のシイタケを見つけた。シイタケはクヌギ、コナラ、クリなどの枯木に生える食用キノコで、日本人が最も好むキノコの一つでもある。今では簡単にシイタケ栽培ができるため、自らが栽培したシイタケが食卓に上る機会も多くなっているだろう。それでも天然のシイタケはそう簡単には見つからない。近づくと、シイタケが持つ独特の香りがあたりに漂っている。秋の森を歩くナチュラリストが最も幸せを感じる瞬間でもある。
このまま進むと十方林道はやがて細見谷川を離れ、押ヶ峠までは登りとなる。そして押ヶ峠を下ると、やがて中津谷川沿いをはしる国道488号線と接する。ここが十方林道の廿日市市吉和側の基点である吉和西である。二軒小屋に車を停めて歩く場合は、吉和西まで来て再び引き返すのは大変ハードである。渓畔林周辺を散策して、そこから引き返すといいだろう。いずれにしても、秋の中国山地を満喫できる素晴らしいルートである。

詳細は、月刊くれえばん2006年10月号掲載

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色づき始めたトチノキの巨樹。

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ヒイロチャワンタケはフランスの高級食材。

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たくさん見つかる栃の実。


   
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