森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.14
 
野呂山・氷池で世界最小のトンボを探す

恐竜が地球上に出現するはるか前、トンボはすでに大空を飛び回っており、その飛翔能力は、現在でも他の昆虫に比べて卓越し、空の申し子と呼ばれている。また、蚊やハエを食べる益虫として、万葉の時代から日本人が大切にしてきた昆虫でもある。
日本最大のトンボといえば誰もが知っているオニヤンマであるが、実は日本最小のみならず、世界最小のトンボが日本に生息しているのである。そのトンボはハッチョウトンボといい、嬉しいことに、今も私たちが住むこの芸南地方で、ハッチョウトンボのかわいい姿を見ることができる。

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野呂山は川尻町のシンボル的存在であり、瀬戸内海国立公園内に位置する風光明媚な山である。また冷涼な気候がさわやかで、西の軽井沢とも言われている。しかし実際は「野呂山」という固有の山はない。野呂山とは東の弘法寺山(788.8m)と西の膳棚山(839.4m)を結んでいる東西2㎞、3000ヘクタールの高原を総称したものである。高原の頂上部には国民宿舎や展望台などがあり、その中央に氷池という大きなため池がある。氷池は標高790mに位置し、その名のとおり冬には氷が張って、昔はここから天然氷を切り出し、氷室に保存しておいて、夏になると広島や呉方面に売りに行っていたと言われている。また天然のスケートリンクとなることも知られているが、近年の温暖化の影響で、かつてほどは凍ることがなくなったようだ。この氷池の北側には小さな池がいくつかあり、それに接して湿地が広がっている。氷池そのものはそれほど生物相が豊かではないが、周辺の湿地は多くの貴重な生物を育んでいる。湿地の中に木道が整備されているので、長靴なしで簡単に湿地の生き物たちに出会うことができる。
ハッチョウトンボはそうした湿地性生物のひとつで、体長2㎝弱、世界で最も小さいトンボの仲間に属している。初めての人はハチなどに見えて、なかなかトンボとは気が付かないであろう。この名前の由来は、江戸時代の草本学者・大河内存真が「矢田鉄砲場8丁目(現在の名古屋市内)にのみ発見せられ」と報告したことに端を発しており、それ以来ハッチョウトンボと呼ばれるようになった。ハッチョウトンボはミズゴケが生える湿地を好み、5月末から夏の初め頃まで姿を見ることができる。氷池周辺の湿地では発生している場所が限られているので、湿地を踏み荒らさないようにして、日当たりの良い湿地周辺を根気よく探してみよう。雄は体全体が真っ赤に染まっているが、雌は茶褐色と淡黄色のまだら模様であるため、簡単に雌雄の区別ができる。
  湿地に囲まれた小さな池の中をのぞいてみると、たくさんのメダカが泳いでいる。メダカは本州から沖縄まで分布する小型の淡水魚で、放流により北海道にも生息するようになった。目の位置が高いので目高(メダカ)と呼ばれ、かつては「目が良くなる」とか「泳ぎがうまくなる」「乳がよく出る」という理由で、食べられていたそうだ。近年、関東地方で急速に数が少なくなり、環境省によって絶滅危惧種に指定されている。中国地方ではそれほど極端に数が少なくなっているわけではないが、最近だんだん見ることができる場所がなくなっており、メダカがすむ池の存在は貴重である。

詳細は、月刊くれえばん2002年6月号掲載

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野呂山・氷池。奥の森周辺に湿地や小さな池がある。

mo14sub1.jpgハッチョウトンボの雄。大きさを10円硬貨と比べてみた。

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メダカは里山を代表する魚。


   
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