森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.12
 
〜芸南の自然歩道めぐり〜
鉢巻山で快適な低山ハイクを楽しもう
ー呉市吉浦町・鉢巻山ー

呉には多くの昆虫愛好家がいるおかげで、市域にどのような昆虫が棲んでいるのかはよくわかっている。とりわけ蝶については非常に詳しく分布がわかっているが、それでも幻と呼ばれる蝶がいる。その名もスミナガシといい、羽の色合いや模様から「墨流し」という名がつけられた日本的な蝶である。呉市ではこれまで数頭の記録しかなく、識者の間では呉市には分配していないのではないかと考えられていた。
そんなスミナガシが鉢巻山に生息していることは、つい最近わかった事である。呉の市街地を取り巻く山塊でありながら、これまで鉢巻山の存在はあまり意識されていなかった。だからこそ、スミナガシの分布が長い間知られていなかったのだろう。初夏の新緑の中、この粋な名を持つ蝶を探してみよう。

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鉢巻山は呉の市街地の西側に位置し、日ごろから見慣れている山でありながら、多くの人が山の名前さえ知っていないようだ。標高は約400m、一見すると何の変哲もない普通の山である。鉢巻山の登山道はいくつかあるようだが、最もよく利用されるのは焼山の鍋土峠からである。呉市斎場の前にある霊園を歩いていると、右手に鉢巻山への登山口がある。
しばらく歩くと、どこからか少し甘い香りが漂ってくる。ちょうどこのあたりは吉浦側から、瀬戸内海がよく見渡せるビュー・ポイントだ。少し道を外れて探してみると、数株のササユリが咲いていた。ササユリは日本固有のユリで、西日本の一部に自生している。西日本で山百合といえば、このササユリのことだ。通常、自然状態でササユリが花を咲かせるまで7〜8年かかるといわれている。そして花は強烈な芳香を放ち、わずか5〜6日で散ってしまう。運良くこの短命なササユリの咲いている場に出会ったならば、その幸運に素直に感謝しよう。呉の市街地に近い場所にササユリの花が咲いていることは、それだけで素晴らしいことだ。
山頂までしっかりとした石垣が続いていた。三等三角点があり、標高は400mと書かれていた。コンクリート製の井戸のようなものがあり、これは戦時中の砲台跡だ。この鉢巻山も戦時中の哀しい記録を刻んだ山なのだ。山頂での目的は、呉市ではほとんど記録のないスミナガシの確認である。
スミナガシは本州以南に分布する中型のタテハチョウで、翅の色や模様から「墨流し」と名付けられた。東南アジアにも広く分布する蝶ではあるが、その名前から純和風の雰囲気がある。幼虫はアワブキやミヤマハハソという植物の葉を食べる。ところが太刀掛優先生の『広島県呉市産植物誌』によると、この2種類の植物は呉市での記録がない。同じアワブキ科のヤマビワという南方系の植物の葉も食べるので、ヤマビワを食べている可能性もある。この謎解きにも、ぜひ挑戦したいと思っている。山頂でおいしい昼食を食べて、登ってきたときと同じルートで下山をはじめた。新緑の木漏れ日の中、どこからか夏鳥のキビタキが鳴いている。いい山だなと再度思った。初夏の低山ハイクには、この鉢巻山がお薦めだ。

詳細は、月刊くれえばん2005年6月号掲載

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日本の国鳥・キジ

mo12sub1.jpgスミナガシの口は印象的な赤色

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甘い匂いが漂うササユリ


   
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