森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.11
 
フクロウが巣立つ初夏の森
ー呉市栃原町・灰ヶ峰裏登山道ー

日ごと緑が濃くなる初夏の森を歩いてみよう。森のいたるところで野鳥の鳴き声が聞こえ、気持ちの良い散策ができる。しばらく歩いていると、グワッグワッという聞き慣れない鳴き声が森に響き渡った。まるで私を警戒しているような鋭い鳴き声だ。
立ち止まって注意深く木々を見上げてみると、1羽のフクロウが私を見下ろしている。その近くの枝には、まだフワフワの綿毛におおわれたフクロウのヒナがとまっていた。どうやらあの鳴き声は、巣立ったばかりのヒナを守る親フクロウが、「これ以上近づくな!」と警戒する鳴き声だったようだ。

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呉市北部には灰ヶ峰と野呂山いう二つの大きな山塊があり、どちらの山でもフクロウと出会うことができる。そのうち、今回は初夏の灰ヶ峰を紹介する。
3月中旬、まだ木々の芽吹きが始まる前にフクロウの産卵が始まる。これまでの観察では普通は2卵で、稀に3卵のこともある。餌となるネズミなどの多い地域では4〜5卵を産卵することもあるようだが、呉市周辺ではそれほどネズミなどの小動物が多くないのだろう。フクロウの巣は大木の樹洞で、産卵した後の約1ヶ月、雌はほとんど卵から離れずに卵を暖め続ける。4月中旬、やっとフクロウのヒナが誕生する。雌はしばらく樹洞の中でヒナとともに過ごし、雄が持ってくるネズミなどをちぎってヒナに与える。そして2週間ほどしてヒナも大きくなると、雌は樹洞を出て、少し離れた場所からヒナたちを見守るようになる。5月中旬には、大きくなったヒナの巣立ちが始まる。大きくなったとはいえ、まだヒナは飛べない。そのため巣立ちは、樹洞から地面に飛び降りることになる。そして近くにある木に鋭い爪を使って器用に登り、高い枝の上で親フクロウが持ってくる餌を待っている。
この頃が、最も簡単にフクロウに出会うことができる。なぜなら、いつもは人間がやってくる気配を感じるとすぐに飛び去ってしまうフクロウが、飛べないヒナがいるために飛び去ることがない。逆に、人間を威嚇するために鋭い声で鳴くからである。この鳴き声を聞いたら、近くの木立周辺を注意深く捜すといい。きっとフクロウの姿を見つけることができるはずだ。
栃原から灰ヶ峰山頂まで延びる林道を、通称「裏登山道」という。途中には自然に配慮した灰ヶ峰公園もあり、広島県中南部では一級の生き物観察エリアである。フクロウのヒナは毎年決まった場所にいるわけではないが、裏登山道の灰ヶ峰公園よりやや下側にある雑木林では観察できるチャンスが多い。林道から離れて、雑木林の中を歩こう。この辺りは下草や藪もなく、自由に雑木林の中を散策することができる。
雑木林には可憐な花がいくつも咲いているが、この時期のお気に入りはチゴユリだ。うつむいて咲く小さい花はまるで稚児のようで、またユリに似ていることから、チゴユリと名付けられた。雑木林の中にひっそりと咲き、花は葉に隠れて見えないため、注意して歩いていないと見逃してしまう。チゴユリの清楚な花姿は茶花にも似合うようで、最近ではずいぶん人気があると聞いている。
ある年、この森を歩いていると、地面に白いペンキのような物がたくさん落ちていた。この白い液体状の物は、野鳥の糞である。この辺りに何か大型の鳥がいると思って、木立を見上げてみると、すぐ上の枝に真っ白い塊がついていた。巣立ったばかりのフクロウのヒナである。
フクロウのヒナも人間が珍しいようで、興味深くこちらをのぞき込んでいる。近くでは親鳥がグワッとという警戒音を発している。それでもしばらく動かないでそのまま立っていると、フクロウ親子は危険がないことを察知したようで、しばらくすると何事もなかったように静かになった。フクロウのヒナはしばらく辺りをキョロキョロしていたが、やがて疲れてしまったようで、そのまま枝の上に座り込んでしまった。まさか鳥がお尻を付けて座り込むなんて想像していなかったので、そのあまりに人間的な姿に驚いてしまった。そのままフクロウのヒナは目を閉じて眠ってしまった。近くで親鳥が守ってくれるので、安心して眠っているのだろう。私はヒナの眠りを妨げないように、そっとこの森を後にした。

詳細は、月刊くれえばん2007年6月号掲載

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座り込んでしまったフクロウのヒナ

mo11sub1.jpg初夏の森にひっそりと咲くチゴユリ

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親フクロウはヒナの近くで見守っている


   
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