森の達人・神垣健司 “森へ入ろう”

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VOL.10
 
開拓団の歴史を知る馬離場池を訪ねて

馬離場池という不思議と心に残る名前の池を知ったのは、つい最近のことである。実際、この池の存在を知っている人は少ないだろう。馬離場池は野呂山・西尾根の中腹にある大きな溜め池である。馬離場池のある辺りは江戸時代に開拓地として開かれ、観農坂と呼ばれていた。古くは民家や寺社・畑などもあったようだが、今はただ馬離場池のみが人知れずたたずんでいる。人の姿はなくなったが、馬離場池は今でも多くの生き物を育んでいる

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暗い山道を抜けると急に目の前が明るくなり、立派な林道が現れる。この辺りが観農坂と呼ばれるところである。この合流点のすぐ裏に馬離場池はある。この時期、池の水位は下がっているため、気を付ければ池面に入り込むことができる。水が引いた部分は湿地になっており、春から夏にかけては多くの湿原性植物が咲いている。しかし、冬には一面枯れ野で、わずかに食虫植物であるモウセンゴケの痕跡がある。辺りには人間の足跡はなく、イノシシと思われる動物の足跡が残っていた。
陽が当たって暖かい場所には、成虫で冬を越すチョウの仲間、ルリタテハやヒオドシチョウが日向ぼっこをしている。ルリタテハは東洋区に広く分布する青いタテハチョウである。ヒオドシチョウは初夏に成虫になると1ヶ月ほど活動し、夏には活動をやめて隠れて過ごし、秋・冬もほとんど活動することなく、春になってやっと交尾・産卵する気の長いチョウである。池の周りの雑木林には小さなイトトンボが飛んでいる。これはホソミオツネントンボで、やはり初夏に成虫になり、その後ずっと林の中で過ごしている長生きのトンボである。春には茶色の体色が鮮やかなブルーになって、再び水辺に現れる。このように天気が良く暖かい冬の日に、成虫越冬する昆虫が活動している様を見ると、何か妙に得した気分になる。

馬離場池のある観農坂は、各地に向かう交差点になっている。ここから野呂山山頂の十文字ロータリーに向かってもいいし、林道を北に進んで郷原に向かってもいい。自然観察に時間をとりたいため帰路の時間が心配な人は、最短距離である往路を引き返して広石内に向かうのもいい。往路引き返しといっても、周囲の風景は見る位置が変わるとずいぶん違ってくるため、また新たな発見があるだろう。

 

詳細は、月刊くれえばん2000年2月号掲載

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水位が下がった馬離場池。湿原が一面に広がる

mori_vol10_4.jpgジョウビタキはあまり人を恐れない

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ルリタテハは飛び立ってもまた同じ場所に戻ってくる

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日光浴をするヒオドシチョウ

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広島県では越冬場所が不明のホソミオツネントンボ


   
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